バディ・リッチというジャズドラマーをご存知でしょうか。1917年にニューヨークで生まれた偉大なるミュージシャンです。

 彼はその圧倒的なパワーとテクニックで有名ですが、実はもうひとつ、彼に関する有名なエピソードがあります。それは、とにかくバンドメンバーに厳しかったということ。

 どれくらい厳しかったかというと、現代ならパワハラ一発アウト、100回裁判をやって120回負けるレベルのものでした。と、こう書くとまるで私が実際にその場で見ていたかのように聞こえるかもしれませんが、実はツアーバスの中でバンドメンバーに対して2分以上にわたり容赦なくダメ出しする様子をこっそり録音しているテープが残っているんです(興味のある方はYoutubeで検索してみてください)。

 お時間の無い方の為にテープの中身を一部紹介しますと、

「このバンドをなんだと思ってる?このクソ野郎ども!」
「リハーサルに来てた学生の方がよっぽどマシだ!」
「お前らのせいで俺は恥をかかされた!」
「俺は必死に演奏してるのにお前らみたいなクズが台無しにしやがって!」

 とまあ散々な言いようなのですが、どうやらバンドメンバーに対するこの態度の裏には、極めて高い彼のプロ意識が隠されているようなのです。

 実はバディ・リッチの父親はナイフ投げを得意とするコメディアンでした。そして母親は頭にリンゴを載せてステージに立っていたそうです。そんな父親からは、事あるごとに「プロの仕事は絶対にミスしてはいけない。仕事をミスするということは人が死ぬということだ」と幼きバディ・リッチに言っていたといいます。

 そんな環境で育てられた彼が(かなりやり過ぎてはいますが)メンバーに対して厳しくあたることは、ある意味では当然なのかもしれません。

 さて、翻って我々はどうでしょう。毎日それだけの高いプロ意識を持って仕事に臨めているでしょうか。手元が狂えば人が死ぬ、というぐらいの真剣さでひとつひとつの仕事に向きあうことはできているでしょうか。

 バンドメンバー以外の人たちにはとても優しい一面も持ち合わせていたバディ・リッチの激しいドラムを聴きながら、我が身を振り返っています。

 

兵庫支店長 増尾 倫能