「人間には3種類しかいない。それは家族、敵、そして使用人だ。」
 
 田中眞紀子という政治家が言ったとされるこの言葉。
これを聞いた当時は、私自身あまりピンときていませんでしたが、最近になって、ある『特定の種類の人たち』のメンタリティを極めて上手に表現した言葉だなと改めて感心することになりました。
 
 「家族」と「敵」はまだしも、「使用人」というのは、現代日本の一般家庭に育った我々にとっては、ちょっと馴染みの無い言葉ですね。
 
 今更説明するまでもなく、田中眞紀子という人は田中角栄を父に持ついわゆる二世政治家です。彼女が幼い頃から、いつも圧倒的なパワー(権力)がそばにあった人だろうと想像します。どこへ行ってもまるで宗教家の教祖のように崇められ、もてはやされてきた偉大な父親。そんな環境で育ってきたわけですから、自分たちは当主であると錯覚し、自分に仕える者は奉公人、それ以外はいつ襲ってくるかも分からない敵。そして信用できるのは家族だけ、となるのです。
 
 さて、私たちの関与先企業の中にも(あるいはそれ以外にも)、まさに田中眞紀子を「地で行く」ような考え方の経営者の方々がいらっしゃいます。
 
 血の滲むような努力をして一代で会社を大きくしてきた創業者だけでなく、創業者から事業を引き継いだ息子や、創業者の配偶者。そういった方々とお話ししているとき、「この経営者は従業員のことを全く信用していないな」と感じることがあります。そして何故それほどまでに信用できないのか、あまり良く理解できなかったのですが、冒頭の言葉を(ひょんなことから)数年ぶりに目にしたとき、
 
 なるほど、この社長は従業員のことを(それが例え取締役であっても「身内」でなければ)ただの使用人としてしか見ていないのだなと、思わず膝を打ったわけです。
 
 当主と家族以外は、敵と使用人。
 
 圧倒的なパワーを誇る当主が力を発揮しているうちはまだ良いのですが、いずれ当主が引退し、自らの経験と実力に「裏打ちされない」旧態依然とした考え方に囚われた配偶者や息子が舵取りをすることになったとき、その組織の未来には何が待っているのか、改めて私が申し上げるまでもないでしょう。
 
 ただし、私はここで会社の世襲制が悪だというつもりは全くありません。優秀な二代目経営者の方々も何人も知っています。また、世襲制でなければなし得ない思い切った改革もあるでしょう。
 
 しかし自然界には、変化しうる者だけが生き残れるという法則があります。企業経営にも同じことが言えるのではないでしょうか。
 
 もし旧い考えに囚われてしまっているとしても、その考えをすぐに捨て、未来に向かって正しい一歩を踏み出すこと。
 
 もしそれが出来ないというのであれば――淘汰され、朽ち果てていくのをただ漫然と待つことになることでしょう。
 

兵庫支店長 増尾 倫能