今年の初めに、香港のとある企業を視察しました。コロナウイルスがまだ拡大していない時期だったので、視察企業はじめ街中の市民の熱気たるや、想像以上のものがありました。一国二制度という特殊な歴史背景を持つ香港ならではの発展は、この熱気がもとになっているのでしょうね。かつて日本もこうだったよなと、昭和の日本に思いを馳せ、懐かしくもなりました。

 その香港が、この数か月の間でガラリと変わりました。コロナが主な原因ではありません。すでにご存知の通り、「国家安全維持法」が施行されたことにより、香港を香港たらしめていた自由が失われつつあります。ことの是非はさておき、なぜ中国はこのタイミングで同法を施行したのか、いろんな憶測が飛び交っています。

 健全な英知で考えれば、こんなことを強行すれば中国に対する不信感を国際社会に広めるだけで、長い目で見れば中国にとって損しかないように思います。確かに香港ではデモ等も頻繁に行われていましたが、これは従来法でも対応はできますし、香港政府に圧力をかけて抗議活動に強い態度で臨むこともできるはずなのですが…。何故こんな非合理的な判断をしたのか、不思議でなりません。

 諸説ある中で、有力なのは「トップに適切な情報が集まっていないのではないか」という説です。適切な判断材料(この場合は国際情勢)がトップに上がっていれば、それなりの合理的な判断を下すはずです。ただ、権威主義が進めば都合のいい情報しか上がってこなくなるということは歴史が証明しています。いまの中国がまさにそれで、求心力を高めようとすればするほど権威主義が進み、適切な判断材料が上がってこない、そんなジレンマを抱えているように私の目には映ります。1億人に近い党員が居れば、必然かもしれませんね。

 組織運営は様々な「決断」で成り立っています。そして決断するためには、適切な判断材料=情報が必要です。規模が大きくなればなるほど、この適切な情報が得難くなってきます。さらに言えば、良い情報より悪い情報の方がたいてい緊急性が高いので、早急な対応が必要です。ですから、決断をする立場の人間こそ、常日頃から誰よりも謙虚に身を処して、都合の悪い情報こそ適切に、即座に自分に入ってくるような体制にしておかなければいけませんね。そのためには、やはりコミュニケーションこそ「密」にしておかなければと感じる今日この頃です。

 

大阪支店長 𠮷村 徳男