職場づくりにおいて、「働きやすさ」や「健全さ」を大切にすることは、もはや企業の当然の責任となっています。長時間労働の是正や健康管理、コンプライアンスの徹底など、私たちが取り組むべき課題は多くあります。しかし、こうした“正しい取り組み”が行き過ぎてしまうことで、かえって相手を追い詰めてしまう場合があることをご存じでしょうか。近年、それを「ホワイトハラスメント」と呼ぶことがあります。
ホワイトハラスメントとは、ルールや善意、正義感を理由に、相手に強い同調や行動の制限を求め、精神的な負担を与えてしまうことを指します。加害しようという意図はなく、むしろ「良いことをしている」という意識のもとで行われる点が特徴です。そのため、本人も周囲も問題に気づきにくく、状況が長引いてしまうことがあります。
例えば、残業削減の方針を徹底するあまり、「どんな事情でも残業は禁止」と一律に判断してしまうケースがあります。仕事量が変わらないままでは、従業員は持ち帰り仕事をしたり、周囲に相談できずに抱え込んだりする可能性があります。結果として、数字だけが整い、従業員の負担はむしろ増えてしまうこともあります。
近年注目されている健康経営の取り組みにおいても同様です。「運動すべき」「禁煙すべき」といった価値観を押し付けることで、「自分は評価されないのではないか」「居心地が悪い」と感じる従業員が出てくるかもしれません。善意であっても、相手が尊重されていないと感じれば、それはハラスメントにつながってしまいます。
では、私たちは何を大切にすべきでしょうか。鍵となるのは、「目的」と「手段」を切り分けることだと思います。残業削減の目的は“残業ゼロ”という数字ではなく、“健康で働ける職場をつくること”です。そのためには、業務量の調整や人員体制の見直し、相談しやすい風土づくりが欠かせません。
また、「全員が同じ」である必要はありません。年齢、家庭状況、得意分野など、働き方は人それぞれ。まずは相手の声に耳を傾け、対話を通じて柔軟に進めることが、結果として組織の力を高めることになります。
“正しさ”はもちろん大切です。しかし、それを盾にし過ぎると、相手を追い詰めることがあります。「ルールを守ってもらう」だけでなく、「人を大切にする」視点を忘れず温かみのある対応で、これからも安心して働ける職場を目指していきたいと思います。
大阪オフィス所長 東 武志