近年、Web会議やチャット、クラウド共有といったデジタルツールの普及により、業務は迅速化し、効率も大きく向上しました。一方で、その便利さの裏側で、デジタルツールを悪用した犯罪や、ツールの利用に起因する情報漏えいも増えています。人事労務の現場でも、こうしたリスクをIT部門任せにせず、「教育とルール」の課題として捉える必要があるのではないでしょうか。
ひと昔前の新入社員研修は名刺交換や電話応対など、対面を前提としたシチュエーションが中心でした。しかし現在、日常のやり取りはチャットやオンライン会議が中心です。短い文章で誤解なく伝える、相手に配慮したトーンで依頼する、会議では発言のタイミングや議事録の残し方を工夫するなど、デジタル上の作法は「新しいビジネスマナー」と言えるでしょう。
こうしたデジタルコミュニケーションの課題は社外に限りません。近年は、社内コミュニケーションにおいても、ツールの特性が原因となって摩擦や誤解が生じる場面が目立ちます。たとえばチャットは短文になりやすく、意図せず冷たく見えたり、強い指示として受け取られたりすることがあります。既読・未読の表示がプレッシャーになる、返信の速さが評価と結びついてしまう、といった問題も起こりがちです。また、オンライン会議では相槌や空気感が伝わりにくく、意思疎通が噛み合わないこともあります。こうした小さな行き違いが積み重なると、職場の信頼関係の低下やメンタル不調のきっかけにもなりかねません。
企業としては、全社員を対象にデジタルコミュニケーション教育を行い、役職に応じて指示の出し方やオンラインマネジメント、勤務時間外連絡の考え方まで整理しておくことが有効でしょう。同時に、SNS利用や情報セキュリティの運用ルールを、「禁止事項の列挙」ではなく「安全に使うための手順」として明文化し、迷ったときに立ち戻れる基準を用意することも欠かせません。
デジタル化が進むほど、「伝え方」と「守り方」の差が組織力の差になります。安心して成果を出せる職場づくりのためにも、いまこそデジタルコミュニケーション力を育てる取り組みを進めていってほしいと思います。
東京オフィス所長 白倉 玄