回避と逃避

支店長コラム

 以前にも増して「退職代行サービスから電話がかかってきた」という話をクライアント先から聞く機会が多くなりました。メールやLINEで依頼するだけで、文字どおり本人はその瞬間から会社と一切関わることなく退職できるのが人気の理由です。本来の趣旨は、ブラック企業や人手不足を背景に会社を辞めたくても辞められないという現代の労働者のニーズに応えるためのものですが、実態はそうでもないようです。

 つい先日も、「若手社員の退職について退職代行業者から電話があった」という連絡を受けました。どの会社も少なからず問題を抱えています。それを前提に考えても、長年お付き合いのあるこの会社は世に言うブラック企業ではありません。ではなぜこの社員は退職代行サービスを利用したのでしょう。

 これだけ多くの人がサービスを利用している理由として、3万円~5万円と比較的手の出しやすい金額で「手軽に退職できる」ことが挙げられます。実際にサービスを展開している会社のサイトを覗くと、「自分でやらないからうまくいく」、「退職できなかったら全額返金保証」、「親にバレないように退職できる」など、ある意味ポップで心揺さぶられるキャッチコピーが目に留まります。ですが、「手軽に退職できる」ことは、退職代行の本来の趣旨とは異なっているように思えてなりません。

 現代の若者(若者に限らずですが)は、合理的に物事を進めたいという意識が強い人が多いという調査結果を見たことがあります。合理的とは、「道理や倫理にかなっている」の他に、「無駄なく能率的に行う」という意味があります。退職の意思が固まった段階で辞める際の会社とのやりとりは無駄であり、それらに労力を割くぐらいならお金を払ってさっさと辞めたほうが合理的ということでしょうか。

 そもそも退職手続きを他人に頼むことは社会人としての配慮に欠けるという批判も多いですが、先述したように、辞めたくても辞められない状況に心底苦しんでいる人も実際にいます。そういう人を救うためにはとても良いサービスだと思いますが、単に「言いづらいから」、「面倒だから」が理由であるなら賛同しかねます。

 今や代行サービスと言えば家事、片付け、買い物等の代表的なものから、宿題、謝罪、墓参り、夜逃げ、犬の散歩、読書、夫婦、恋人、行列並び、場所取り等の一風変わったものまで多岐に渡ります。もはや数えればきりがないほど溢れかえっている状況の中、共通するのは簡単に利用できることでしょう。ニーズがあるから商売が成り立つわけですが、これらの代行サービスと退職代行を一緒くたにするのはいかがなものかと思います。

 人生において、とりわけ仕事をするうえで面倒なことは付き物であり、そこには回避できるものとそうでないもの、さらには回避できるが成長過程において絶対に回避しないほうがよいものも多々あります。回避してよい結果が得られる場合もありますが、初めから回避するとおそらくこの先もずっと回避することになります。これはもはや逃避ではないでしょうか。経験しないままの逃避ではなく、一度経験したうえでの回避選択であってほしいものです。


 

福岡支店長 城戸 康行