転んでケガをした時、「ツバでもつけとき!」と言われた経験はありませんか?昭和生まれの方なら記憶にある方も多いはずです。消毒作用があるといわれて、私もこどもの頃にはケガをするたびに唾をつけていたものでした。昨今の社会では「不衛生!」とばっさり切り捨てられそうですが…

 自然界においても、動物が傷口をなめる行為はよく見られます。しかし、口の中は生物にとって雑菌の多い箇所なので、ツバをつけることは「消毒」とはむしろ真逆の行為にも思えます。これって意味のあることなんでしょうか?

 実は、これは「あえて雑菌をぬりつける」ことによって、特定の細菌(いわゆるバイ菌)のみが繁殖することを防いでいるのです。いわば菌達のバランスを整えることによって、相互の反応を活性化して回復を早めています。ある意味、消毒と言えるでしょうか。

 我々は、細菌を称して悪玉菌とか善玉菌とか勝手にレッテルをはりますが、自然界にそんな善悪は存在せず、それぞれに役割があり、特定の菌だけでは生命体は成り立ちません。様々な細菌が程よく存在・共生することによって、正常に機能することができます。

 このことは、このコロナ禍においても根本的に必要な考え方だと思っています。人間も、100兆個以上の細菌(ウイルスやバクテリアを含む)を体内に同居させている動物です。細菌の完全排除は現実的ではないし、細菌の否定は人間そのものの否定になります。100年前と比べると社会は視覚的にはずいぶん衛生的になったでしょうが、人間、いやこの地球上が「細菌まみれ」ということは何ら変わっていませんし、変われません。

 そういう目線でいえば、トム・クルーズが主演した『宇宙戦争』(2005)が楽しめます。地球に侵略してきた宇宙人は、最後は地球上に日常的に存在する細菌に感染して死にます。人類が当たり前にもっている抗体がなかったということです。我々が細菌と共存しているということを改めて認識させられる作品ですね。

 一つの生命体を機能させるという意味では、組織も同じです。構成員として色んなタイプの人間が必要です。仕事のできるできないにかかわらず、その人でしか果たせない役割は必ずあります。人員に限りのある中小企業であれば尚更ですね。気に入らない社員の排除ありきでは、一時的に機能はしても、長期的な継続は難しいでしょう。どうやって共生していくのがいいのか、コロナ禍と重ねて組織の在り方を考える今日この頃です。

 

大阪支店長 吉村 徳男