高校時代、登山部に紛れて山登りをした時のことです。何も知らずに参加したものですから、パーティー内の格差のようなものを目の当たりにして唖然としました。それは、リーダーの人間がほぼ手ぶらで悠々と登る一方、一定数の人間(おそらく下級生なのでしょう)が両手では抱えきれないほどの荷物を担いで登る光景でした。いくら下級生だからといって、荷物を持たせすぎではないか、全員で苦しみを分かち合うべきでは?と思いましたが、荷物持ちの人からよくよく話を聞いてみると、実情はまるで違っていました。リーダーが疲労すると、それによって思考が鈍り、全体の進路を誤るかもしれない。それは全員にとって不幸なことだから、リーダーを疲労させないように、僕たちが荷物を引き受ける役割なのです、と。ははあ、そういうものか、と妙に感心したものでした。単に下級生だからと荷物持ちをさせられているわけではなく、末端の人間までその「役割」が理解されており、不満を抱くこともなく、その通り行動していたのです。
 

 さて、仕事においても様々な役割があります。役職という形で役割が示されていれば、課長=課をまとめる、と役割が分かりやすいのですが、私が重視するのは、むしろ形になっていない役割の方です。例えばムードメーカーであったり、苦情窓口係であったり、それこそ風紀委員長と陰で勝手に呼ばれている人もいるかもしれません。それがいわゆる「固有の用」というものであり、代役の利かない、その人でしか担えない役割なのだろうと思います。それを突き詰めていくと、自分にしかできない仕事は何か、自分にしか生み出せない価値は何か、ということにつながります。それを磨いていくことが大事なのであり、世間ではそれを「差別化」というのでしょうね。
 
 もちろん、支店長という立場で考えると、個人の役割に留まらず、この大阪支店の役割は何なのか、さらに社会保険労務士法人協心の社会に対する役割は何なのか、というところまで思考を落とし込んでいく必要があると考えています。当法人にしかできない仕事、当法人にしか生み出せない付加価値、当法人が社会に存在する意義、そういったものを認識し、内外問わず発信していくのが私の役割なのだろうと思っています。
 
 自分の役割が何なのか、自分が存在している意味は何なのか、それぞれの場所・立場でぜひ自問自答してみて下さい。必ずあなたしか担えない役割があるはずです。それを自覚することによって、きっと仕事の質がグンと上がることでしょうし、今後の自分の進むべき方向がより鮮明に見えてくるのではないでしょうか。
 

大阪支店長 吉村 徳男