体の中は驚くほど美しく、騒がしい。これはNHKスペシャル『臓器たちは語り合う』の中でのワンフレーズで、観た後の私の感想も全く同じものとなりました。放送自体は2年前ですが、何回か再放送されているので、ご覧になられた方もいるかもしれません。

 最新科学が、従来の常識を覆して「体中の臓器が互いに直接メッセージをやりとりし、情報交換することで私たちの体は成り立っている」という事実を明らかにしました。これまでは、医学界でも「脳が全体の司令塔となり、他の臓器はそれに従う」という認識だったそうですが、医学の格段の進歩により、全身の臓器たちは脳からの指令を待たずして、直接メッセージをやりとりしている実態が判明しました。

 例えば、ご飯を食べると、胃が直接「ご飯が来たぞー!」と他の臓器たちへメッセージを出します。それを受けた腸は、消化吸収のために大量の血液を集めます。同時に心臓は、血液量の変化のため急激に血圧が下がらないように血管を収縮させる、等々、各臓器・細胞が脳を経由せず直接やりとりをしながら、私たちの命や健康を支えていたのです。

 この「臓器同士が繰り広げている情報ネットワーク」が発見されてからは、医療の在り方も変化しています。従来は病気ごとにそれぞれの臓器を診ることが医療の中心でしたが、現在はそれだけではなく、臓器同士のネットワークに注目して治療を進めることが大切なポイントになってきています。つながっているので、もはや臓器ごとに切り離せないのですね。今後は臓器同士の出すメッセージに耳を傾けることが、治療困難な様々な病気を克服する切り札になるのではないでしょうか。そうなることを切に願います。 

 これは、組織経営においても同じではないかと思うのです。従来は、カリスマと呼ばれるような存在の経営者がいて、様々な指示を出して、各部署が忠実にそれに従うといった形が経営のあるべき姿でした。しかし、これだけ社会情勢が複雑かつ早期変化する時代においては、脳(経営者)からの指示を待つだけではなく、各臓器(現場)が相互にメッセージを出しながら連携して組織を回す、まさに人体のような運営方式が必要だと感じています。もちろん、脳が最重要器官と言えるのかもしれませんが、脳がすべての指示を出すのではなく、各臓器の自立的な活動を促進し、そのバランスを調整することこそがむしろ本来の脳の役割なのではないかとすら感じている今日この頃です。

 

大阪支店長 𠮷村 徳男