「職場環境を良くする」。これは企業の規模を問わず、経営者にとって常に重要なテーマです。近年、働き方改革や人手不足の影響を受け、従業員の定着率向上や生産性の改善が、企業の存続に直結する課題として注目されています。このような背景のもと、厚生労働省はストレスチェックの義務化をすべての事業所に拡大する方針を打ち出しました。これにより、従業員数50人未満の小規模事業者も対象となる見込みです。

 

 実際、小規模から中規模の事業所では、職場環境に起因するメンタルヘルス不調が事業全体に与える影響が特に顕著です。たとえば、従業員が数人規模の職場で1人が休職すると、他の社員に業務負担が集中し、結果としてさらなるストレスを生むリスクがあります。このような事態を未然に防ぐうえで、ストレスチェックは有効なツールとして役立ちます。

 

 ストレスチェックは、従業員個人のストレス状態を把握するだけでなく、職場全体の健康状態を「見える化」する役割を果たします。これにより、「業務負担の偏り」や「コミュニケーション不足」といった職場の構造的課題を明確にし、具体的な改善策を講じることが可能になります。

 

 ストレスチェックを効果的に活用するためには、以下の3つのステップが重要です。

 

 1. 現状の見える化 チェック結果を基に職場の課題を把握します。たとえば、業務負担や人間関係に関する問題点を明確化します。
 2. 改善策の実行 特定された課題に対し、業務の見直しやコミュニケーションの機会を増やすなど、具体的なアクションを起こします。
 3. 継続的な取り組み 改善の効果を検証し、必要に応じて対策を見直しながら、職場環境の向上を続けます。

 

 特に従業員数が少ない職場では、経営者や管理者と従業員の距離が近いという強みがあります。この特徴を活かし、ストレスチェックの結果を基に「対話」を重視することで、迅速かつ柔軟な対応が可能となります。それにより、従業員の満足度やモチベーションの向上につながるケースが多く見られます。

 

 ストレスチェックの義務化は、特に小規模事業者にとって新たな取り組みを求めるものです。実施には一定のコストがかかるものの、従業員の離職やメンタル不調による損失を防ぐことを考えれば、これは将来的に有益な投資といえます。厚生労働省の調査によれば、1人の離職に伴う再採用や育成コストは最低30万円以上に上るとされています。ストレスチェックを適切に活用することで、こうしたコストを削減し、従業員が安心して働ける環境を整えることが可能です。

 

 ストレスチェックの義務化を、従業員の健康を守り、職場全体の成長を促すチャンスと捉えることで、経営にプラスの影響をもたらすことができます。従業員が安心して働ける環境を整え、組織全体の成長につなげていきましょう。

 

神戸オフィス所長 春原 真起子