人材不足が日に日に深刻さを増しています。少子高齢化が進む中、労働力人口の減少は避けられず、多くの企業が「人が足りない」という課題に直面しています。特に中小企業や地方の企業では、人手不足による業務の停滞や企業存続の危機に直面するケースも見られ、その結果労働市場全体で人材の争奪戦が激しくなり、採用のハードルがますます高まっています。
これまでも、女性や高齢者の労働市場への参加促進や外国人労働者の受け入れ拡大など、あらゆる政策が進められてきました。一定の効果はあるものの、急激に進む人材不足を解消するには十分とは言えません。
こうした状況の中、多くの企業が人材確保の手段として賃金引き上げに踏み切っています。特に新卒採用市場では初任給のアップが顕著で、大手企業では他社との競争に勝つために初任給を一気に20%引き上げるという大胆な戦略を打ち出すところも出てきました。しかし、すべての企業が同じような戦略を取れるわけではなく、特に中小企業では大企業の賃金引き上げ競争の影響を受け、同じような条件を提示することが難しく、結果として人材確保がより厳しくなる傾向があります。
とはいえ、今は「賃金さえ高ければ人が集まる」という時代ではありません。もちろん生活の安定は重要ですが、求職者は「働きやすさ」や「職場の雰囲気」を重視する傾向が強まっています。単に給与が高いだけでなく、自分が成長できる環境や仕事の意義を実感できる職場を求める人が増えたのでしょう。
こうした背景を受け、多くの企業が取り組むべき課題の一つは、社員一人ひとりの強みを活かし、主体性を生み出す環境を整えることです。社員が自ら関心のあるプロジェクトを選べる仕組みを導入することでモチベーション向上に繋がったという事例もあります。もちろん、すべての企業にこの制度が合っているわけではなく、重要なのは社員の強みを最大限に活かし、仕事への意欲や主体性を引き出すために、自社にとって最適な仕組みを考えることです。企業がこうした視点を持ち、柔軟な働き方を模索することこそが優秀な人材を惹きつける上で欠かせないのではないでしょうか。
採用活動は「未来の社員」との出会いだけでなく、「現在の社員」との関係を見直す絶好の機会でもあります。例えば、ある企業では採用活動の一環として現役社員が求職者に職場環境や業務内容を直接説明する場を設けています。この取り組みは、求職者にリアルな職場の姿を伝えるだけでなく、現社員が自分の働き方を振り返るきっかけにもなっています。結果として、既存社員のモチベーションアップや社内コミュニケーションの活性化につながるという副次的な効果も得られています。
人材不足の課題に対応するには、一つの方法だけでは不十分です。賃金の見直しや採用戦略の強化はもちろん、職場環境の改善、既存社員の満足度向上、さらには技術革新の積極活用といった多方面からのアプローチが求められます。最終的には企業が自社の強みを活かしつつ、社員一人ひとりがやりがいを感じられる職場をつくることが持続可能な成長の鍵となるでしょう。
福岡オフィス所長 城戸 康行