みなさんは「感情労働」っていう言葉をご存知でしょうか。
これまで「労働」を大別するならば、「肉体労働」や「頭脳労働」の二つと捉えていましたが、近年ではそれに加えて、この感情労働という概念が定着し、そして増えてきていることを知りました。
感情労働は、アメリカのとある社会学者が提唱した働き方の概念で、「相手に感謝や安心の気持ちを喚起させるような、公的に観察可能な表情や身体的表現をつくるために行う感情の管理が必要な労働」と定義されています。つまり、それぞれの職務に求められるニーズ(表情や声や態度等)があり、そのニーズに合わせて自分の外面や内面をコントロールしていく必要がある労働をいいます。
感情労働の代表的な職業としては、航空会社の客室乗務員やホテルのコンシェルジュがあり、飲食業や販売業などを含めて、接客を伴うサービス業が主に挙げられます。感情労働が増えてきた背景には、こういったサービス産業の拡大がまず考えられますが、あらゆる産業で顧客満足度の向上を追求する傾向が強まってきていることも一因ではないでしょうか。
たとえば、製造業であっても、単に製品を作って終わりではなく、製品販売後のアフターサービスを行っているところも数多く存在します。サービス業以外の業種であっても、おもてなしや顧客第一を重視する企業では、様々な職種で感情労働が伴っていると私は捉えています。そして、企業理念や規則などをもとに一定のルールが存在し、そのルールに沿って自らの感情をコントロールすることが求められます。
その感情のコントロールですが、二つの方法があるといわれています。一つ目は、「表層演技」です。実際の自分の感情はどうであれ、自分とは別物として、表面上ルールに沿った表情や態度、振る舞いをするという方法になります。二つ目は、「深層演技」です。ルールに対して自分自身も心からそう思えるように、自分の感情をコントロールしていく方法になります。ただ、どちらの方法のほうが良いということではなく、長期的に継続していくためには、双方をバランスよく使い分ける必要があるといえます。
肉体労働や頭脳労働とは異なり、疲労が蓄積されても、休んだだけではリフレッシュできるようなものではない感情労働。長時間にわたる場合や高い感情要求が続く場合、従事者にとって大きなストレスとなり、状況によってはバーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こすリスクが高まります。目に見えない感情の労働であるため、可視化しづらく、従事者が自らの疲労に気づくことができていないケースも多々あります。
そこで重要となるのが基本的なメンタルヘルス対策であり、従事者自身がメンタルヘルスについての正しい知識を身につけ、感情労働の特性を理解する、いわゆるセルフケアを実施することが必要です。このセルフケアを強化することで、より気を配って過ごすことができますし、自身の状態変化にいち早く対処できるようになるはずです。
我々に寄せられる休職相談の大半は精神疾患に伴うものです。そして、年々増加傾向にあります。もちろん、その全てに感情労働が関わっているとは捉えていませんが、現在の社会情勢を考えてみると、少なからず、感情労働が起因しているものもあるといえます。この感情労働が時代と共にどう変化していくのか、今後も注視していきたいと思います。
大阪支店長 東 武志