先日、美容室で読んだ雑誌に「エイジングパラドックス」という言葉が出てきました。年を重ねると幸福感が高まる傾向がある一方で、幸福曲線を見ると40~50代がその「底」だという記述に驚きました。40~50代といえば、まさに中高齢層の働き盛り。仕事でも家庭でも責任が増え、多忙を極める時期ですが、実際には「幸せの底」だと言われると少し考えさせられます。この時期のモチベーション低下は、個人だけでなく、職場全体の活力にも影響を与える可能性があります。
キャリアコンサルタントの世界では、「中年の危機」という概念が知られています。これは、人生の中間地点で自分のこれまでのキャリアや人生を振り返り、新たな目標や価値観と向き合う時期とも言われています。エイジングパラドックスの「幸福曲線の底」と一致する部分もあるでしょう。
特に働く中高齢層にとって、この時期は「役割の変化」が強く意識されるタイミングでもあります。若手社員としてがむしゃらに働いていた頃とは異なり、キャリアの中盤から後半にかけては、これまで担ってきた役割や責任が変わることが少なくありません。例えば、リーダーシップを発揮し、若手社員を育成する役割を与えられたり、これまでの経験を活かして戦略的なポジションにシフトすることが求められる場合があります。
こうした「役割の変化」は、適切なサポートや環境が整っていれば、大きなやりがいに繋がる可能性を秘めています。私自身も、キャリアの中で経験した役割の変化をポジティブに捉え、それが仕事へのモチベーションを支える要因となってきました。しかしながら、すべての中高齢層がこの変化をスムーズに受け入れられるわけではありません。「役割の変化」がむしろモチベーションの低下に繋がるケースとして、例えば以下のような課題が挙げられます。
- 自分の役割が曖昧で、これまでの経験やスキルが十分に活かされていないと感じる。
- 若手社員との価値観の違いやコミュニケーション不全がストレスとなる。
- 昇進や昇給といった評価が停滞し、「これ以上のキャリアアップは望めない」と感じる。
- AIや業務プロセスの進化に対応することに不安を抱き、自信を失う。
中高齢層の従業員が職場でモチベーションを維持するためには、経営者や人事担当者が次のような具体的なサポートを提供することが欠かせません。
例えば、
- 中高齢層の経験やスキルを活かせるプロジェクトやポジションを用意する。
- キャリアの再設計を支援するためのカウンセリングやワークショップを実施する。
- 世代間のコミュニケーションを促進するためのチームビルディングや交流機会を設ける。
こうした取り組みを通じて、中高齢層が「自分はまだ組織に貢献できる」と実感できる環境を整えることが重要です。
エイジングパラドックスの「底」は、環境や意識次第で乗り越えられるものだと感じます。幸福感は単なる「結果」ではなく、「自分の役割」に納得感を持つことからも生まれるものです。中高齢層の従業員が自分の役割をポジティブに捉え、やりがいを感じられる職場環境を作ることが、組織全体の活力を高める鍵となるでしょう。
神戸オフィス 春原 真起子