近年、「静かな退職(Quiet Quitting)」や「残業キャンセル界隈」といった新しい働き方が注目されています。「静かな退職」は最低限の業務にとどめ、それ以上の負担を避ける姿勢を指し、「残業キャンセル界隈」は法定労働時間を厳守し、残業を控える動きを指します。これらは、ライフワークバランスや自分らしい働き方を求める従業員の価値観の表れといえるでしょう。
一方で、経営者や人事担当者には、生産性への影響や急な対応が難しくなる懸念があるかもしれません。しかし、これを課題と捉えるだけではなく、企業文化や働き方を見直すきっかけとすることが重要です。従業員が安心して力を発揮できる環境を整えることは、企業の成長につながります。
従業員の成長を支援する仕組みを充実させることは、仕事への意欲を高める鍵です。スキルアップ研修や資格取得支援制度の導入、キャリア面談による目標や希望のヒアリングなどを通じて、従業員の「やりたいこと」と「会社の求めること」を結びつける取り組みが効果的です。このような仕組みにより、小さな成功体験を積み重ね、意欲を引き出すことが可能です。
また、柔軟な働き方の制度を取り入れることも重要です。テレワークや時差出勤制度を試験的に導入することで、従業員が仕事とプライベートを両立しやすい環境を整えることができます。従業員の声を反映した制度設計を行い、「意見が取り入れられている」という実感を醸成することで、職場への信頼感が高まります。さらに、管理職を対象とした研修を通じて、制度を積極的に利用できる雰囲気を醸成することが、制度の定着を後押しします。
職場内のコミュニケーション活性化も欠かせません。1on1ミーティングやチームミーティングの定期実施、ランチ会や交流イベントの開催など、従業員同士が信頼関係を築きやすい環境を作ることが重要です。加えて、部署や役職を超えたプロジェクトチームを編成し、横断的な協力体制を促進することで、職場全体の一体感を高めることができます。
これらの施策を通して、従業員の働きがいと企業の生産性を両立させることが可能です。「静かな退職」や「残業キャンセル界隈」を課題として捉えるのではなく、これを新たな企業文化を構築するチャンスとし、従業員と企業がともに成長できる環境作りを支援していきたいと考えています。
神戸オフィス所長 春原 真起子