古代ギリシャの哲学者・タレスをご存知でしょうか。「万物の根源は水である」と説いた哲学の創始者とも言われる人物です。彼に「人間にとって何が困難なことか?」と訊いたところ、「自分自身を知ること」と答え、「何が容易なことか?」と訊いたところ、「他人に忠告すること」と答えたそうです。

 なるほど、確かにそうですね。

 自分のことは一見簡単に知ることができそうですが実はそうではありません。たとえば、自分の顔にしても直接には見ることができず、鏡や撮影機器などの道具を使ってはじめて見ることができます。声にしてもそうです。日ごろ自分の耳で聞いているものと他人に聞こえているものとは異なります。録音してみるとよくわかりますよね。「え?自分の声ってこんな感じなの?」となります。こんな些細なことでさえも人は意外と自分を知り得ていないものです。

 一方の「人に忠告することが易しい」というのもよくわかります。実際私たちは周りの人のこととなるとよく見えるものです。人のことだと「なんて賢明な判断だろう」とか、「なんてバカなことを…」といったことがリアルに理解できますし、その多くが的確だったりします。同時に、どうしてその的確な判断が自分に対してはできないのだろうとヤキモキすることもしばしばです。

 さて、このタレスの教訓を自分に活かすならば、自分のリアルな姿を知るためには他人からの的確な指摘や指導が欠かせない、となるのではないでしょうか。自分で自分を知ることは難しいけれど第三者からはこちらのことがよく見えています。そして、ここでいうところの第三者とは、自分の姿を客観的に見てくれていて、耳が痛いことも遠慮せずに素直に話してくれる人。聞き心地の良いことを言ってくれる人ばかりでは自分を知ることはできません。

 人とは弱い生き物です。人間関係において、ついつい自分と気の合う人を求めてしまいがちです。趣味趣向が同じだったり、価値観が似ていたり、こちらの意見に常に賛成してくれる人だったり。その方が楽ですし、時に私もそう思ってしまうところがありますが、人として、特に職業人として本当の意味で成長するためには決して良いことではないですね。

 いくつになっても、どんな立場になったとしても、自分を客観的に見ることができるよう、今の自分をありのままに歯に衣を着せずにはっきり直言してくれる人が近くにいてほしいと思いますし、私自身も関わっている周りの人に対して、そんな存在になりたいと思っている今日この頃です。

 

福岡支店長 城戸 康行