地方自治体の首長がハラスメントによって辞任するというニュースが相次いで取り上げられています。1989年に「セクハラ」が新語・流行語大賞を受賞し、2000年代には「パワハラ」という言葉が生まれ、その後「アカハラ」や「マタハラ」、最近では何かにつけハラスメントを用いて「モラハラ」や「レイハラ」といったように、「ハラスメント」という言葉は30年以上をかけて市民権を得て社会に浸透し、世間の目も厳しくなってきたと思っていましたが令和になっても意識が変わっていないのかと思うと不思議でなりません。
地方自治体のような外からの目があまり介入しない独裁的な組織や、その組織の長が決定権を多く持っているという組織では、長に権力が集中するためハラスメントが起きやすいということは考えられますが、価値観や考え方が違う個人の集まりを組織として一定の方向に動かしていくには権力は欠かせないため、権力とハラスメントは完全に比例するわけではありません。そこで、ハラスメントの原因を探るときは「権力」ではなく「社会的勢力感」に着目してみてはいかがでしょうか。
「社会的勢力感」とは、「相手に言うことをきかせる力が自分にはある」という感覚を持っている状態のことで、他部署に無理を通すことや、逆に誰かの要求を断るといったことが一方的におこなえる状態は「社会的勢力感が高い」ということになります。必ずしも職務上の権限の大きさが社会的勢力感を高めるものではないというところがポイントで、「自分には影響力がない」と思っている管理職もいれば、実際の権限は小さくても周りに言うことを聞かせられると感じている一般社員もいるということです。
このような視点でハラスメント防止を考えますと、人事として組織を見るときには職務上の権限と違ったかたちで権力者となり意のままに職場を動かしている人はいないか、特定の人が好き放題に動けてしまうような職場環境はないかといったことを意識的に探すことが必要です。
ただし、社会的勢力感が高いということが必ずしも悪いことばかりでないということも同時に認識しておかなければなりません。社会的勢力感が高い人は、組織の問題を自分ごととして捉え、責任感を持って行動する傾向が強く、逆に社会的勢力感が低いと自分には何もできないと考え行動を起こさない人材になってしまう傾向があります。そのため、社会的勢力感が高い人を見つけたからといって組織から排除するのではなく、高い社会的勢力感と組織に対する責任感をうまく結びつけて組織にとってよい方向に作用するように働きかけることが必要です。
私自身はというと、周囲から「もっと自信を持って」とよく言われます。周囲に悪影響を及ぼさない範囲で社会的勢力感を高めていかねばと思う今日この頃です。
東京支店長 白倉 玄