ワークライフバランスという言葉が誕生し何年ほどたったでしょうか。働き方改革に取り組む企業が徐々に増え、コロナ禍でその動きはさらに加速し、ワークライフバランスの捉え方にも徐々に変化が起きつつあるようです。

 

 ワークライフバランスと聞くと、プライベートの時間を重要視しその時間を確保できることや、働き方改革の一環として子育てや介護支援といった仕事とプライベートが両立しやすい職場環境を整備することなどが連想されます。しかし、近年では「仕事とプライベートの両立」という域から、「職場でのメンタルヘルスやウェルネス」という分野へ関心が向きつつあります。

 

 いくらワークライフバランスの取り組みをおこなったとしても、「仕事」と「プライベート」というように物事を分けて考えると対極となり、どちらかに比重が偏ってしまったり、逆にどちらも完璧を追求してしまったりとメンタルヘルスやウェルネス向上に至らないということが考えられます。

 

 そこで、「スローワーク」という考え方に着目してみてほしいと思います。効率重視、生産性重視という考え方は、どれだけ多くのモノを生産できるかが重要であった産業資本主義の時代では正とされていましたが、近年ではこうした考え方に疑問を抱く人が増えつつあるようです。けっして仕事を減らすということではなく、急ぐことを減らし一つの仕事に集中して取り組み、質を高めることを「生産性」と再定義するというものがスローワークの考え方です。

 

 このような「仕事の在り方」、もっと言えば「幸せの在り方」への考え方は今後より変化し多様化していくと思います。この「スローワーク」という考え方も一つの価値観であって、この考え方が正ということではありません。しかし、こうした価値観の変化や多様化を受け入れ、育児や介護支援といった施策としての取り組みと同時に、仕事の定義や企業文化といった側面からもアプローチしていく必要があるのではないでしょうか。

 

 スローワークという考え方を知った時に真っ先に思い浮かんだのが、動物の「ナマケモノ」でした。ビジネスの世界では「怠け者」は生き残ってはいけません。しかし、生きることが目的で生存競争がある動物の世界でナマケモノは生き残っています。動物にとって生きることそのものが目的であれば、ナマケモノは幸せ者と考えられます。ナマケモノという名前は、そのゆっくりゆっくりした動きからつけられたもので、ナマケモノにとってはいい迷惑でしかなく、ナマケモノからしたら「人間はなんてせわしない生き物なのか」と思われているのかもしれませんね。

 

東京支店長 白倉 玄