今年の春、中学生になる娘と外出した際の帰り道での話です。バスを降りて家まで約5分、娘と歩いているといつもの見慣れた景色が少し違って見えました。昨年より建設中だった賃貸マンションの防護カバーが外され、真新しい外壁が露わとなり、青い空にきらきらと輝いて見えたのです。
建築士になりたい、と将来の夢を語っている娘とそのきらきらとしたマンションを眺めながら、おしゃれな建物だね、どんな人が住むのかな、間取りとかどんなだろうね、と話をしていた時に、娘が改めて将来の夢について語り始めました。
話を聴いていると、どうやら卒業式の時に将来の夢についてみんなの前で発表することになっているようです。一級建築士のうち全体の6割が高年齢だから自分が大人になるころはニーズが高まっているはずだ、と私もあまりよく知らない事を自慢げに話す姿に、大人げなくちょっと意地悪な質問を投げかけてみました。
「すごく建築士になりたい気持ちが伝わったけど、もし大人になった時に、建築士という仕事が世の中から無くなってしまったらどうする?」と。
すると、少しだけ間をおいて娘が答えたのは、「その時は、どうして建築士になりたいか、という事をもう少し深く考えてみようと思う。」という事でした。キャリアコンサルタントの私として100点の答えがすぐに帰ってきたので驚きながらも「そうか、どうしてなりたいかという事を考えてみようと思うのね。お母さんもいい方法だと思うな。」とホクホク顔で答えたのでした。
現在の小学生はキャリア教育が授業の一環で採用されています。将来のことを考えるだけでなく、近所の市場やスーパー、資料館等に行ってそこで働く人に直接インタビューしたり説明を聴いたりという活動が行われています。子供たちはそういった教育を早い段階から受ける事が出来るだけでなく、その内容を素直に受け止めて、身につけて実践できている事に私は改めて感動させられました。
大人世代はこういったキャリア教育を受ける機会に恵まれなかった方が多く、また日々の事に追われ必死にやり遂げることに注力し、キャリアについて考えるのは転職のタイミングでようやく立ち止まって振り返る、将来の見通しについて考える、というケースが少なくないのではないでしょうか。
そんな大人世代の方にも5分でも10分でも良いので、毎日キャリアについて考えてみていただきたいなと思っています。一言でキャリアといっても、それは「職業生活」だけの話ではなく、人生のライフステージすべての一連の流れをキャリアとしてとらえて考えてみましょう。
あなたの5年後は、10年後はどんな姿になっていたいでしょうか?
なぜ、そのようになりたいと感じているのでしょう?
その為に今あなたにできることはどんなことがありますか?
今それはできていますか?
もし、今できているのであれば、その状況を呼び寄せる何かがあるのかもしれません。なぜできているのかな?とさらに問いかけてみましょう。そして、こういった問いかけを毎日続けると、少しずつ変化するかもしれませんね。
ちょっと頭の整理が落ち着かないな、なんとなく考えはするけど今は何もできないなと感じているのであれば何か理由・原因があるのかもしれません。身近に相談や話を聴いてくれる人がいれば話をしてみるのも良いでしょう。
「建築士という仕事が世の中から無くなってしまったらどうする?」の問いかけは変化に柔軟に対応しきれない私たち大人に投げかけられている質問でもあります。今、私たちがやっている日々のことは近い将来姿を変え、場合によってはなくなってしまう可能性もあるのです。その時に大切なのは「なぜ」と自分に問いかけ続ける力なのでは、と私は思います。
神戸支店長 春原 真起子