日中の気温も徐々に高くなり、また風の強い日やぐずついた天気の日も増えてきました。もうすぐそこまで春が来ている証拠ですね。このコラムを執筆している今日は3月20日。そうです。侍ジャパンがメキシコとの一戦を翌日に控えている日です。アメリカに渡ってからが本当の戦いと言われていますが、おそらくコラムが皆さんの目に留まるころには優勝国が決まっていることでしょう。日本の勝利を願いつつも、一野球ファンとしては世界トップレベルの選手たちの本気の戦いが見られることに胸が躍ります。

 

 さて、春に「たたかう」といえば春闘。「春季生活闘争」の略語で、かれこれ70年の歴史がありますが、私が今の仕事を始めて今年ほどこの言葉がハマる年はありません。記録的な物価上昇が進む中、まさに自身の生活の安定(継続のほうがしっくりくるでしょうか)を勝ち取るための闘争ですね。

 

 そんな今年の春闘ですが、大手企業では満額を含む近年にない高い水準の回答が相次ぎました。三菱重工と川崎重工、IHIは月額1万4000円のベアで49年ぶりとなる満額回答。NECと富士通は2022年の2倍以上となる月額7000円のベアで満額回答しました。また、トヨタなど自動車業界はすでに2月に異例の速さで満額回答しており、ホンダは2022年の4倍の月額1万2500円のベアでおよそ30年ぶりの高い水準、日本航空と全日空も過去30年で最高水準のベアを決めています。

 

 一方、国内の従業員の7割が働いている中小企業にも賃上げが広がるかが大きな焦点となっています。一部では収益力を高め、従業員の賃金を引き上げようという動きも出ていますが、簡単には賃上げに踏み切れないと頭を悩ませる経営者が多いのも現状で、東京商工リサーチの調査でも中小企業の80%が賃上げを行うものの、ベアの実施予定はそのおよそ半数という結果も出ています。

 

 相応の収益力を持ち、より高い成長を志向する企業は、今後も物価の上昇に応じて賃金をアップさせていくでしょう。さらに雇用や賃金体系を根本から見直し優秀な人材を積極的に確保しようとする動きもより激しくなっていきます。一方で、コロナショックの尾を引いている中小企業を始め、なかなか賃上げできない企業も数多く存在している状況です。賃金を積極的に上げることのできる企業と難しい企業の二極化が今後より鮮明になることが予想されます。

 

 資本主義の経済では、基本的に市場メカニズムを通して成長期待の高い産業や企業にヒト、モノ、カネが再配分されます。競争原理が働くことによって企業の成長ペースや個人の所得状況に差が出ることは避けられませんが、問題はその状況が続くと格差の固定化懸念が高まることです。それは社会心理全体を抑圧し、長期的に政治・経済にマイナスの影響を与えることになります。

 

 それらを防ぐためにも、政府はしっかりとしたセーフティーネットを設ける必要があります。例えば2000年代のドイツでは、解雇規制の緩和に加え職業訓練と就労支援を強化しました。就労を拒む場合には失業給付を減額して人々に働こうとする意識を植えつけ、経済の再生を実現しました。これらは、企業、産業間での労働力の再配分を促し、企業の成長を支えることに繋がります。もちろん企業の成長は必須ですが、実現できればより積極的に賃上げを行う企業は増えるでしょう。

 

 セーフティーネットの整備は中長期的な賃上げ機運を高める重要な要素です。除名とか政党間の揚げ足取りなど本当にどうでもいいので、これからの日本に、国民に夢をもたらす政策を打ち出してほしいものです。 

 

福岡支店長 城戸 康行