過日、とあるレストランで食事をしたのですが、そこでは興味深い運営をしていました。注文を聞きにきたスタッフがそのまま厨房に入り、料理を作り、そしてできたての料理をこちらまで直接運んできました。つまり、1人のスタッフが接客から調理まですべてを担っていました。

 

 1人だけで切り盛りをしている店なら当然そうでしょう。が、その店には店員が何人もいるのに、分業をせず全員がすべての業務を行い、自分で完結している、そんなお店でした。普通は、厨房に向かって「オーダー入ります!」とか、よくありますよね。

 

 店を出る際に、私はなぜ他店のように分業をしていないのかと尋ねましたが、その時の返答はあっけらかんとしていて、「その方が効率的だから」という意外なものでした。

 

 分業をすると労働効率が上がる-これはある意味、常識ですよね。それが、分業をしない方が効率的だとは…分業・細分化をして仕事をなるべく単純化すれば、同じ作業を重ねるわけですから、当然にその部分のスキルは上がり、作業時間が短くなるはずです。

 

 しかし分業し細分化された仕事ばかりしていると、仕事の全体像が捉えにくくなり、全体の効率化をかえって損ないかねません。あるいはスタッフ間で伝言ゲームが発生し、顧客のニーズには程遠いサービスを提供してしまうかもしれません。それらを踏まえて考えると、様々な業務を1人で一気通貫した方が、結果的には実は効率がいい、このレストランが「効率化」と言うのはそういうロジックでしょう。

 

 また、細分化された仕事をするのは生身の人間です。部分的に同じことばかりを繰り返していると、作業は早くなったとてモチベーションは続くでしょうか。そこまで考慮すると、分業を突き詰めることが全て効率化につながるとは決して言えないかもしれません。

 

 単純に仕事をさばくだけなら、分業した方が効率的でしょう。しかし、一気通貫して業務を行うことによるスタッフの成長度、また顧客の満足度やリピーターになることによる本質的な効率を考えると…ううむ、どちらが効率的なのか、考えさせられます。

 

 このレストランの話はさておき、事業運営をする上では、適切な分業はやはり必要だと思います。ただ、分業が効率化に直結するという信仰は、この令和ではいったんゼロベースで考え直した方がいいのかもしれません。それだけ、時代が動いています。

 

 では、最適な分業のラインはどこなのか?それは業界業種により、また職場や個々のスタッフの状態でも違ってくるでしょう。その全体像をとらえ、最適サービスと効率化の最大公約数をさぐる、そんなことばかり考えている今日この頃です。

 

 大阪支店長 𠮷村 徳男